子育て中のネイル・エステサロン起業から、心理相談の「駆け込み寺」へ
「『誰かに胸の内を明かしたいけれど、相手がどのように感じるか、どのように捉えられるか心配』と、悩みを抱え込んでいる人は多いでしょう。重苦しさを増す社会の動きに、以前にも増して憂うつになるのは、なにも特別な人だけに起こることではありません。不安や不満などはがまんせずに吐き出して」
そう話すのは、岡山県倉敷市で延べ7000人以上の思いを受け止めてきた心理カウンセラーの松谷陽子さん。
「女性に、もっとすてきに輝いてほしい」といったコンセプトで、ネイルとエステケア、結婚式やパーティー向けのレンタルドレスを提供しているトータルビューティーサロン「Yuu」の代表でもあります。
相手の声に耳を傾け、自らの体験を踏まえて親身にこたえる松谷さんに、美容やファッション以外のことでアドバイスを求める人も多く、子育てのほか、夫婦、恋人、職場といった人間関係や起業の相談にも応じるように。
「サロンのお客さまだけではなく、私のSNSを見て関心を持ってくださることもあり、幅広い世代の方がオンラインや対面カウンセリングを利用されています。笑顔を取り戻した方からは『まるで駆け込み寺のよう。とても助かった』などの感想が寄せられることもあります」
新型コロナウイルスの影響で世の中が大きな変革期にある中、「自分にできることはなにか」を考え、行動に移した松谷さん。2021年には、日本オンライン資格推進機構(JOCP)認定「オンライン心理カウンセラー資格」を取得。心理カウンセラーとして活動の場を広げています。
居場所探しで苦しんだ体験が、人の心を内側からケアし元気を引き出す力に
嫁ぎ先が家族で建設業を営んでいたことから、「長男の嫁」として当然のように事務を任されることになった松谷さん。子育てに奮闘する中、夫の親族に囲まれた環境で不得意な業務をこなすのは負担が大きく、ついに精神的にも肉体的にも疲れ果ててしまいます。体重は15キロ近くも落ち、心療内科に助けを求めました。
「独身時代から仕事でうまくいかないことがあると、すぐにあきらめてしまい、30社近くも転職を繰り返していました。自信が持てず、いつも自分以外の人や組織のせいにして逃げてばかりいたのです」と振り返ります。
「現状を変えたい。自分の殻を打ち破りたい」と考えていた松谷さんは、子どもが幼稚園に入園する頃、もんもんとした日々からの脱却を決意。ちょうど趣味として始めたネイルが、ママ友の間で評判となっていたことも、独立を後押ししてくれました。
「家族に『どこの勤め先も続かないのに一体何ができる?』と軽くあしらわれたことで、反骨精神を刺激されました。『好きなことで、生き生き働いてみせる』と奮起しました。でも手応えを得るようになったのは、サロンが軌道に乗り始めた時ではありません。自分という存在が『お客さまを励まし、力になれることがあるのだ』とわかってからです」
おしゃれを通じて女性の気持ちをリフレッシュし、元気づけてきた松谷さんでしたが、過去の苦しい日々を糧に、心の内側からケアすることで本来の輝きを取り戻すほうへと軸足を移します。
生きづらさに揺れる気持ちを否定せず、親身な傾聴で心の荷物を引き受ける
美容家・ファッションアドバイザーとして接客する中で松谷さんが気付いたのは、「あなたになら…」と、家族や友人には言えないような事情や心境を吐露する人が少なくないということでした。
当初は、「心身をリラックスさせるエステを受けて気分が軽くなったのだろう」という印象だったそうです。スッキリとした表情で帰る人の後ろ姿を見送るうち、「自分が壁を乗り越えてきた経験や人生観から生まれた言葉に、人の心を癒やす力があるのでは」と認識できたことが、現在の活動につながっているそうです。
カウンセリングで松谷さんが大切にしているのは、相手の話を丁寧に聞いて、認めていくこと。
「お客さまの様子を見ていると、答えがほしいというより、ただただ聞いてもらいたいのだということが伝わってきます。だから良いことも悪いことも決して否定することはありません。みなさんに共感しながら、支えていける心理カウンセラーでありたいですね」
社会や家庭での居場所探しや経営者としての苦悩、複雑な男女の心理、老親の介護と仕事の両立など、人生のあらゆるシーンを経てきた松谷さん。生きづらさに揺れる心情に寄り添い、寛容に受け止めていきたいと語ります。
「気がふさぎ、打ち沈んでいるときには、真っ暗な闇に包まれているようにしか思えないでしょう。何が正しくて何が普通なのかは、他人が決めることではありません。ほんの少しの勇気を持って、心の荷物をひとつずつ私に預けてみませんか」
(取材年月:2021年12月)
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